“治る”を、あきらめない。ボディスプラウト代表・小林 篤史インタビュー

整体ショーツという、ちょっと不思議なアイテム。その背景には、整骨院での現場経験、施術者としての試行錯誤、何より「身近な人を助けたい」という切実な想いがありました。
今回は、ボディスプラウト代表・小林 篤史に、立ち上げからこれまでの歩みと想いをじっくり伺いました。

「治したい」原体験から、治療家を志したきっかけ

——このお仕事をはじめたきっかけを教えてください。

小林:実は僕、高校時代は本気でプロ野球選手を目指していたんです。名門校に入って、甲子園を本気で狙っていました。ところが高1の秋ぐらいに、突然腰を痛めてしまって。整形外科でも原因不明と言われて、治らないどころか、どんどん悪化していく。練習にもついていけなくなり、このまま歩けなくなるんじゃないかと、本気で不安になりました。

——当時はショックだったのではないでしょうか?

小林:そうですね。夢だった野球を諦めざるを得なかったわけですから。でも不思議なことに、悔しさと同じくらい「なぜ腰がこんなに痛くなるのだろう?」っていう、身体の仕組みへの興味が湧いてきたんです。原因がわからないことへの疑問が生まれて、「自分の身体なのに、どうして自分で分からないんだろう?」って思ったんですよね。

そこから、腰痛の原因を自分なりに突き詰めていくことが、今の仕事の原点になったように思います。

——大学進学後も身体に関する学びは続けていたのですか?

小林:はい。日本大学文理学部体育学科に進んで、トレーニング理論などを勉強していました。とにかく身体を動かすことが好きだったので、フィットネスクラブでインストラクターのアルバイトもしていました。
身体もかなり鍛えていて体脂肪率も1桁台で、ボディメイクの大会を目指せるくらいには筋肉ついていました。

ただ、そこまで鍛えても腰の痛みはまったく良くならなかったんです。むしろ悪化していて。「なんでだろう?」と思っていたとき、たまたまカイロプラクティックを受ける機会があって。なんと、その施術で腰がスッと楽になったんですよ。

——たった一回で、ですか?

小林:
そうなんです。とにかく衝撃的で。これだ!と思いました。筋トレでもストレッチでも改善しなかったのに、触っただけでよくなるなんて。自分の中では革命的な出来事でしたね。

——カイロプラクティックの経験が治療家としての道を選ぶきっかけになったのでしょうか?

小林:直接ではないですが、選択肢のひとつにはなったかもしれませんね。大学時代は就職活動をしていて上場企業の内定をもらい入社しました。ですが入社してすぐに合っていないと感じて退職してしまったんです。
その後しばらくは、いろいろな場所を旅したり、自由に過ごしていました。いわゆる自分探しの旅といいますか(笑)。でもあるとき、偶然ネットで見つけた「5日間集中カイロプラクティックセミナー」というのに興味を持ちまして。30万円の参加費を親に借りて参加したんですよ。

そこで改めてスイッチが入って、もっと身体のことも学びたいなと思い柔道整復師の専門学校に通い始めました。学校入学と同時に結婚しその後子どもが産まれたこともあり、お金を貯めるために、昼間は学校、夜は深夜のマッサージ屋でバイトをしながら、ほとんど寝ずに過ごしていました。

大変でしたが、現場で何百人、何千人という人の身体に触れた経験は、今の自分をつくってくれた財産だと思っています。

ちなみに専門学校時代に修行で入った整骨院が、現在の「宮前まちの整骨院」がある川崎市宮前区でした。この場所に縁はなかったのですが、将来開業するならここだなと感じていました。


姿勢と腰痛の関係に気づくまで

——姿勢に注目するようになった背景を教えてください。

小林:柔道整復師として整形外科に勤務していたとき、ある師匠から言われたんです。「小林、お前の腰痛は姿勢からきているぞ」と。

それまで自分の姿勢なんて気にしたこともなかったので、目から鱗でした。自分の身体は骨盤が前に倒れて猫背になっていたんですよ。それが腰にずっと負担をかけていたことがわかりました。骨盤を立てて姿勢を整えるだけで、驚くほど腰がラクになったんです。

この体験から、「姿勢が変われば、身体はこんなに変わるんだ」と気づきました。それからは姿勢に着目して、猫背矯正や姿勢改善メニューを始めるようになりました。

――ご自身の経験がそのまま施術方針になっているんですね。

小林:その通りです。ある日、173cmくらいの女子高生が肩こりと頭痛の症状で来院したんですけど、話を聞いたら「背が高いのがコンプレックスで、無意識に前かがみになっていた」と。

彼女の姿勢を調整して、身体が楽になったあとに「私、ちゃんと治したい」って言ってくれたんです。すごく印象的でしたね。姿勢ひとつで、その人の人生観すら変わることがある。そう思った出来事でした。

おかげさまで猫背矯正を受けるために多くのお客さまが来院してくださるようになりました。一方で、もっと多くのお客さまの悩みを解消したいのに、自分が施術するには限界があるということも感じていました。
そこで辿り着いたのが、猫背矯正をサポートできるような商品を販売することでした。

整体ショーツが生まれるまで

——奥さまの不調も整体ショーツ開発のきっかけになったそうですね。

小林:はい。じつは妻が産後にギックリ腰を繰り返していたんです。それまでは体力もあるし、運動経験もある人だったのに、家事や育児で疲れが溜まってくるとまた腰が痛くなる。

整骨院で施術も受けていましたが、そのときはよくても、また家で同じ生活に戻るとすぐ再発するんですよ。
通うだけでは根本解決にならない、と思いまして。それなら自宅で骨盤を整えられる方法があればいいのではないか?と考えたのが、“はくだけ整体”という発想の出発点です。

家の中でも整えられる、毎日無理なく続けられるものが必要だと、妻の不調が教えてくれました。


整体ショーツの構造と工夫

——最初からショーツという発想だったのでしょうか?

小林:最初はいろいろなアイテムを試しました。骨盤ベルトや補整下着など。100種類以上は買ったと思います。でもいずれも、これじゃないなと。締めつけが強すぎて逆に体調が悪くなる人もいて。

あるとき、一番自然に毎日身につけるものって何だろう?と考えて、ショーツだ、とひらめいたんです。

整体ショーツでは、“締めつけ”ではなく“立てる”ことに着目しました。従来の補正下着や骨盤ベルトは、横からギュッと締める構造が多いんです。そうすると逆に骨盤が開いてしまったり、ヒップアップを意識しすぎると前傾になって腰に負担がかかってしまいます。

そこで「尾骨方向に締める」、「下腹部を支える」という、整体の技術を応用した2点サポート構造を考えました。これが今の整体ショーツの原型になっています。
このアプローチは、私が現場で施術していた動きをそのまま応用したものでもあります。効果はもちろん、毎日続けられるように“はき心地”にもすごくこだわりました。

製品開発のリアルと改善の過程

——製品化にはどのような壁がありましたか?

小林:山ほどありました(笑)。そもそも自分には“下着”をつくるノウハウがなかったので、ゼロからのスタートでした。片っ端から縫製会社に電話して、「こういうショーツをつくりたいんです」ってお願いしてたんですけど・・・まあ、門前払いでしたね。

その中で、あるOEM企業が話を聞いてくれて、製品化に向けた試作を一緒に進めてくれたんです。あのときの出会いがなければ、今の整体ショーツはなかったと思います。本当にありがたかったですね。

製品名もいろいろ考えましたね。最初は「猫背ショーツ」でいこうと思っていました。姿勢改善=猫背矯正といったイメージがあったので、わかりやすいかなと。ですがスタッフから「猫背ってネガティブに感じる人も多いかも」と指摘されて、はっとしました。どれだけ身体に良くても、「猫背」って書いてあったら敬遠されるかもしれないって思って。

そこから改めてどんな名前なら購入してもらえるか考えて、「整体ショーツ」という名前にたどり着きました。整える、治す、というニュアンスも含まれていて、自分たちの想いにも合っているなと。

ちなみに第1弾の整体ショーツは、僕が「レースをふんだんに使えば女性に手に取ってもらえるのでは」と思い、全面レースにしたんです。そうしたら、スタッフのお母さんから「洗濯したら糸が出てきた」と言われてしまい、ショックでした(笑)。試作段階で日常で使われることが想定しきれていなかったんです。そこからは「見た目よりも日常の快適さ」を優先するようにしていきました。

そういったこともあり、開発には女性スタッフの声を積極的に取り入れるようになりました。育児中のママたちの意見はとても貴重で、「もっと動きやすくできないか」「洗濯しても型崩れしない素材にしてほしい」「産後だけじゃなくて、ずっとはきたい」など。そういった声を集めて、製品を改良し続けていきました。

いまのNEO+があるのも、ママたちのリアルなフィードバックのおかげです。


共感を広げたクラウドファンディングと海外展開

——第1弾を販売した時の反響はどうでしたか?

小林:正直苦しかったですね。かなりこだわってつくったので、原価がかかってしまって。広告費の負担も大きく、広告を出すと赤字になってしまう状態で、売れても利益が出ない。けれど在庫はたくさん残っていると。心が折れそうな時期でした。
スタッフたちもこの商品は売りたくないという反応で。ただ、ひとつだけ救いがあったのが、とにかく「はくと調子がいい」ということでした。

そういった経験から、第2弾の整体ショーツNEOは使いやすさにこだわりつつ、資金面はクラウドファンディングも活用しました。おかげさまでかなり反響がありましたね。「自分も同じ悩みがあった」とか、「使ってよかったから応援したい」とか、メッセージもたくさんいただいて。それがもう、涙が出るほど嬉しくて。ようやく「この製品は必要とされている」と実感できた瞬間でしたね。

そこからは改良に改良を重ねて、現在は「整体ショーツ NEO+」が最新モデルです。また、尿漏れサポートの「整体ショーツ モレンヌ」や男性向け「整体パンツ ZERO」、スポーツ向け製品「BX GOLF」などを販売しています。

——海外展開についてもお聞きしたいです。

小林:最初に海外に広がったのは台湾なんですけど、これがまた偶然で。在宅スタッフのひとりが台湾に住んでいて、「台湾でも売れると思いますよ」とサラッと言われたんです(笑)。

それならやってみよう、と、台湾でEC販売を始めたら、現地のテレビ番組に出演できることになって。それで一気に注目が集まりました。
その後もシンガポールやタイに広がっていき、今は英語や中国語でもブランドサイトを展開しています。言葉が違っても、「身体を整えたい」という気持ちは共通なんだと実感しますね。

中でも、インドの空港での出来事が衝撃的でした。医療系の展示会に出展するためにインドを訪れた際、空港の通路に車椅子が30台以上ずらーっと並んでいたんです。

しかも利用する人は若い人たちばかり。理由を聞いたら「腰が痛くて歩けない」と。インフラが整ってない地域では、腰痛が仕事や生活を直撃してしまうんですね。
同行していたスタッフとも「これはもっと伝えていかないとダメだね」と話して、帰国後すぐに社内で“グローバル展開を本気でやろう”という方向性が固まりました。

腰痛で人生の選択肢を狭めてしまう人を、世界中で減らしていきたい。あの空港の光景が、今も原動力になっています。


整体ショーツで広げたい未来

——最後に、読者へメッセージをお願いします。

小林:整体ショーツって、ただの下着ではないと思っていて。「身体を整えるきっかけになる道具」なんです。
僕自身、高校時代は猫背で自信がなくて、授業中に手も挙げられないような子どもでした。でも、姿勢が整ったことで声が出るようになって、人の目も見て話せるようになって。自分に自信が持てるようになったんです。

だから、「身体って、変えられるよ」って伝えたい。ヨガでも整体でもピラティスでも、なんでもいい。とにかく、選択肢があるってことを知ってもらいたい。そのひとつとして、整体ショーツがあるということを、知ってもらえたら嬉しいですね。